廃止が決定している三鷹市立の特別養護老人ホーム「どんぐり山」についての野村羊子の見解

先日のblog記事 「市役所庁舎建て替えについての野村羊子の見解」
http://nomura-yoko.net/blog/20190410/)では
庁舎建替え問題を入り口に三鷹市の課題を明らかにしました。

三鷹市における様々な課題への対応、対策、考え方に現在の三鷹市政が
どのような価値観で物事を判断し、そして行動しているのかが見えて来ます。

200億円という大きな予算の使い道を決める過程で、
三鷹市民へのしっかりとした情報提供もなく、
意見を聞くこともせずに決定しているのです。

予算だけでなく、建物や土地、人材などの資源(リソース)をどのように扱い、
運営しているのか、も 市長をはじめとする市の判断が見えてきます。

私、野村羊子(以下「私」)は、資源が循環するようなシステムを
作っていくべきだと考えています。

すなわち、市民のニーズを満たすための福祉サービスを充実させるために
予算を割いていくことが必要です。

今回は廃止が決定している特別養護老人ホーム「どんぐり山」について、
私の見解と提案を述べながら、三鷹市政の課題を明らかにしていきます。

1 【はじめに:特別養護老人ホーム 「どんぐり山」 廃止問題とは】

三鷹市は特別養護老人ホーム「どんぐり山」の廃止条例を
2018年3月27日の議会で決定しました。
実際の廃止は2020年3月を予定しています。

この廃止に伴い、様々な市民の困っている声やニーズが浮き彫りになっています。

例えば、特別養護老人ホームの待機者は300人程います。そんな状況のなか、
どんぐり山が廃止されてしまうと具体的にどういうことが起きるのでしょうか。

どんぐり山の利用者は平均「要介護度4.5」の人たちで、
重度の人たちの受け皿になっていました。
公の施設だという思いがあるからこそ、低所得の人や
緊急での受け入れ体制を頑張って作って来ていました。
職員にも、公立の施設としての処遇を確保しようとしていましたから、
長期で勤務し続ける正規スタッフがいて、
安定したサービスが提供できていました。

またどんぐり山には、デイサービスやショートステイもありました。
短期間で介護をしている家族が用事を済ませたり、
一息ついて休憩ができたりするためにも
このようなサービスはたくさんの登録者がいました。

54人の定員のところに、180人の待機者、そしてショートステイには
50ー60人の登録者がいます。

25人のデイサービスに対して登録は80人いる、というのが現状だったのです。

つまり、どんぐり山は200世帯以上の三鷹市民の暮らしを支えていたことになるのです。

廃止の説明会の際には、認知症の母親を着替えて連れ出してくれていたのに、
どこにいったらいいんだ という声もありました。
たくさんの人たちが不安と居場所を探して路頭に迷っています。

2 【費用が上がり、低所得高齢者の行き場がなくなってしまいます】

費用面でも、どんぐり山がなくなってしまうと、低所得高齢者の行き場がなくなります。

三鷹市では、今、井口と大沢でそれぞれ社会福祉法人が特別養護老人ホームを
建設中です。三鷹市は、それらがどんぐり山の受け皿になると考えていますが、
提供する部屋割りのよる利用料が高額(倍以上)になるため、
低所得高齢者は利用できるとは思えません。

現在、国は特別養護老人ホームの新設に際して、
ユニット型個室の建設には補助金を出すのですが、
4人部屋には補助金をださないことにしています。

その結果、どんぐり山のような4人部屋で、低価格で利用できる施設は
希望者が多いにもかかわらず今後なかなか建たないでしょうし、
それを廃止してしまうなんて市民のニーズに逆行しているとしか思えません。

3 【寝たきりの高齢者が高額の個室で過ごすという意味を考える】

介護保険制度が変わって、特別養護老人ホームには
「要介護度3」以上の人たちしか施設に入れないことになってしまいました。
つまり、それは身動きが取れない人たちばかりが施設に入ることになります。

どんぐり山は平均で「要介護度4.5以上」の人たちが利用しており、
より重度な人たちの受け皿になっていました。
また、4人部屋であるため利用料金は抑えることができました。

それがなくなるということ、そして国の政策として
個室の施設が増えていくことが高齢者の施設での過ごし方に
どう影響してくるのかを具体的に想像してみましょう。

身動きのとれない人たちが個室に入ると
放置されてしまう時間がどうしても長くなります。
つまり、刺激のない状態で、たった一人でベッドで寝ているだけということです。

4人部屋だと他の人たちがいて、ヘルパーの出入りがあったり、
他の人の家族が出入りしたりして刺激があります。
ユニット型個室でそのような質のサービスを提供しようとすると、
今よりもスタッフの数が必要となります。

人の気配を感じていきていることが当たり前の世代の高齢者を
現代社会の個室というところに一人入れておくこと自体、
どうなんだろうという議論もあります。

自由に動ける人が個室を与えられるということとは異なる視点が必要となります。

QOL(クォリティ・オブ・ライフ、人生の質)の問題について
もっと議論を重ねていかなくてはいけません。


4 【三鷹市民の生活のために予算を使って循環型のシステムをつくろう】

三鷹市はこのように、市民にとって機能していた大切な施設に
予算をまわそうとしません。

市政はこの廃止の主な理由として「施設の老朽化」、「赤字が出る」、
「市内に新たな特養が2つできる」、「市内ではデイサービスは足りているので
新たなものは設置しない」 と主張していますが、
以下の図で市民目線との違いを比較していただければと思います。

市民視点と市政視点の違い 一覧 (どんぐり山を例に)

市政の言い分(運営目線) 野村の意見(市民・利用者目線)
施設の老朽化 建物は築22年で老朽化とはいえない。まだ使える施設なのに閉鎖後の利用方法は未定。
赤字が出る 市民が必要な福祉は市が負担して運営すべき。予算配分の問題で理由にならない。
その上、赤字に含まれている大規模修繕はほぼ終わり、経費は減少する。
市内に新たな特養が2つできる 民間の新設特養は個室ユニット型で利用料金が倍以上。低所得者は入所できない。
緊急保護などの公的責任を担う施設がなくなる。
市内ではデイサービスは足りている
ので新たなものは設置しない
デイサービスを変わるのはそう簡単ではない。
利用している高齢者とその家族が環境の変化に対する精神的、物理的な
負担を負わなくてはならない

このように、市民目線で考えれば
どんぐり山には予算をつけて継続していく道を選ぶほうが現実的であり、
予算が市民の介護問題および、福祉サービスに携わる人たちへの雇用を生む
循環システムがつくれます。
私は、どんぐり山の廃止決定の撤回を求め続けています。

一般的に社会保障費(福祉・医療・保険)が年々大きくなって
財政を圧迫しているために問題だと言われていますが、
本当にそうでしょうか。

これからの社会に必要なのは福祉の分野です。

社会保障費は保育士、介護福祉士など福祉の現場で働いている人に
賃金が支払われます。
介護や育児などの 福祉サービスへのニーズが高まっているからこそ、
そこに予算を当てていく必要があるのです。

福祉施設運営費や人件費に予算を使うことで
安定したサービスの提供につながります。
サービスの提供を充実させることで
市民のニーズを少しでも多く満たしていくことが
市政の財政運営の腕のみせどころです。

また、福祉にお金をかけることで地元で雇用され、
地元で働き、地元で日常の消費をして納税をすることで
経済循環が生まれるのです。


どんぐり山にかぎらず、今、三鷹市では
保育園の待機児が190人(2018.4.1現在)です。
児童館が2館しかなく、ユースの行き場が ありません。
また役割の違うスクールソーシャルワーカーとスクールカウンセラーが兼任で
オーバーワークです。
重度の障害者が通える施設は市に1つしか ありません。
新しくできた生涯学習センターは有料で、利用率が半減しました。

このように市民のニーズは数限りなくありますが、
多くが満たされていない状況です。

これらは予算がないためだと言われていますが、
予算がないのではなく、つけてないだけなのです。

200億円の庁舎建て替えよりも、優先するべき予算の回し方 があるのです。